今週の一枚 スウェード『Night Thoughts / 夜の瞑想』

今週の一枚 スウェード『Night Thoughts / 夜の瞑想』

スウェード
『Night Thoughts / 夜の瞑想』
2016年1月22日(金)発売

2010年のスウェードの再結成と、再結成後初のアルバム『ブラッドスポーツ』(2013)は、今思えば近年稀に見る美しく、そして正しい復活のかたちだった。その成功の秘訣は、再結成にあたり彼らには「スウェードらしさを、自分たちのプライドを取り戻す」という明確な目標があった点、そして何よりも、ツアーに乗り出すアリバイ作りのためにおざなりの新作を出す再結成バンドも多い中、スウェードの場合は再結成のニュース・ヴァリューを凌駕するほどに、『ブラッドスポーツ』が純粋に素晴らしいアルバムであったという点だ。

そんな『ブラッドスポーツ』から3年、通算7作目のオリジナル・アルバムとなるのが『Night Thoughts / 夜の瞑想』だ。このアルバムもまた、非常に彼ららしい一作となっている。ここで言うスウェードらしさとは、『ブラッドスポーツ』が大成功を収めたからといって、その方向性を安易に繰り返すことは絶対にしないという、どこまでもクソ真面目で貪欲な姿勢それ自体によるものだ。再結成後のキャリアをボーナスステージとせず、あくまでも現役のアーティストとして未来に歩を進めようとする姿勢によって作られた本作は、ある意味で『ブラッドスポーツ』の対極をいく作品に仕上がっているのだ。

「僕らはアルバムごとに振り子のように方向性を変える」とかつてスウェードを評したのはブレット・アンダーソンだったが、直感的でエネルギッシュだった前作から、思索とコンセプトを感じさせる本作へ、夜明けの号令のような光に満ちていた前作から、深い夜に潜っていくようなダークかつヘヴィな本作へと、確かにこの『Night Thoughts』と『ブラッドスポーツ』の間には振り子の力学が働いている。

そんな『Night Thoughts』のダークさ、ハードさ、コンセプチュアルな作りから連想されるのは、彼らのセカンド・アルバム『ドッグ・マン・スター』(1994)だ。本作が再結成スウェードにとっての2作目のアルバムであることを思えば、どうやらスウェードには「セカンド・アルバム」のタイミングで思いっきりディープな作品を作る傾向があるようだ。そして『ドッグ・マン・スター』が疑いようのない傑作だったのと同じ意味において、本作もまた、アウトサイダーたるスウェードの、闇の中でこそ煌めく素質が思いっきり露になった傑作である。

スウェードの盟友と呼ぶべきカメラマンであり、『ザ・リバティーンズ 傷だらけの伝説』の監督としても知られるロジャー・サージェントが制作したショート・フィルムとパッケージになった本作は、まさにサントラのように情景を喚起させるコンセプト・アルバムでもある。ひとつのテーマを様々な角度から鳴らし、写し、リプライズを繰り返しながら通底する物語を浮かび上がらせていく本作には、アルバム一枚をまとめる大きなうねりを感じさせる。徹底したアルバム主義、それは曲の切り売りがデフォルトとなった不可逆なストリーミング時代に対する、彼らなりのアンチテーゼとも言えるだろう。その一方で、緻密に編み上げられた本作の構造の隙間を縫うように、パワフルなポップ・アンセムがびゅんびゅん飛び出してくるのが、現在のスウェードのコンディションの良さと言うか、気力・体力共に十全な彼らのポジティヴな空気を体現するものだ。何しろ、“What I'm Trying To Tell You”や“Like Kids”のようなナンバーは、『ドッグ・マン・スター』どころか『カミング・アップ』もかくやというアッパなーポップ・チューンなのだから。

『ドッグ・マン・スター』に象徴される90年代のスウェードのアウトサイダーの美学には、精神をすり減らしていくギリギリの悲壮感も同時に漂っていた。しかし2016年のスウェードには、もはやそんな脆さはない。再結成によって彼らが取り戻した「らしさ」とアウトサイダーとしてのプライドは、かくもスウェードに強さをもたらしたのだ。(粉川しの)
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