【連載】奇跡の再始動STORY 〜KICK THE CAN CREW編〜

【連載】奇跡の再始動STORY 〜KICK THE CAN CREW編〜
【連載】奇跡の再始動STORY 〜KICK THE CAN CREW編〜
平成から令和へと元号が変わり、1ヶ月が経った今日この頃。この連載「奇跡の再始動STORY」では、平成という時代に解散や活動休止し、そして再び平成で復活を果たしたバンドやグループ――彼らの歩みが止まってしまったあの日から、一体どんな未来=「今」に繋がっていたのかを辿っていく。
その第三回目では、KICK THE CAN CREWを特集する。


■音楽シーンのど真ん中に侵攻したキャラ立ち3本マイク


その3人組の登場は、ただの人気者というよりもある意味、時代の要請を受けた「現象」であった。KREVA、LITTLE 、MCUという、個々にソロやグループで活動していた3人のラッパーがグループを結成したのは1997年。前年に発表された3者のコラボ曲“カンケリ”にあやかって、グループはKICK THE CAN CREWと名付けられた。インディーズリリースを通してファンを増やしながら、2001年にRIP SLYME、KICK THE CAN CREW、そして先輩格のRHYMESTERと、FUNKY GRAMMER UNITとして切磋琢磨していたグループが相次いでメジャー進出を果たすことになる。日本のヒップホップアクトがメインストリームへと侵攻する、ひとつの重要な転換点だった。

個々に高いラップスキルを備え、その上でめくるめくマイクリレーを展開していたKTCCだが、さらに彼らの音楽とリリックには、ノスタルジーやモラトリアムといった情緒に強い揺さぶりをかける作用が込められていた。2002年末の『第53回NHK紅白歌合戦』で披露されたパーティーチューン“マルシェ”がカラオケ店で歌われまくる一方、“イツナロウバ”や“アンバランス”といった若い刹那の心情を捉えた楽曲も人気を博する。メジャーデビューシングル『スーパーオリジナル』から約2年半の間に15作ものシングルを量産し、とりわけ2003年後半には怒涛の毎月連続リリースを展開した。

■突然の活動休止。しかし、切っても切れないコンビネーション


傍目にはまったく翳りの見られない快進撃だったが、アルバム『GOOD MUSIC』後の2004年3月、KTCCは突如として活動休止を発表する。同年6月の日比谷野音ワンマンで一旦のピリオドを打つと、3人は個々の活動に邁進することになる。MCUは敬愛する浜崎貴司とのユニット=マツリルカとしても作品を生み出し、またKREVAはソロとして活動しながらオウンレーベルの運営やプロデュース業にも尽力していった。

時を経てROCK IN JAPAN FESTIVAL 2008におけるKREVAのステージ。彼は「世界で俺にしか呼べないスペシャルゲスト」と告げてLITTLEとMCUを招き入れ、“イツナロウバ”そして“アンバランス”の共演でオーディエンスを狂喜乱舞させた。ROCK IN JAPANではその後も3人の共演が風物詩のようになり、LITTLEとMCUのユニット=ULのアルバム『ULTRAP』をKREVAがプロデュースしたりするうちに、ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2014ではKICK THE CAN CREW名義による感涙のGRASS STAGE初日トリ出演が果たされる。KREVA主催「908 FESTIVAL」で3人が共演する機会も増え、次第にKTCC再始動が現実味を帯びていった。

■《経て からの ここ》と歌い上げながらの復活劇



ここまで目を通して貰えれば分かるように、KTCCの復活は段階的で、予兆があった。しかしそれでも、2017年6月に突然、新曲“千%”のミュージックビデオが公開されたときには、多くの人が身震いするような感動を味わったはずだ。あの「現象としてのKICK THE CAN CREW」を一瞬のうちに呼び起こす、ドラマティックな楽曲とラップがそこには刻まれていた。結成20周年の節目に果たされた完全復活は、約14年ぶりのアルバム『KICK!』発表と日本武道館での「復活祭」、そして全国ツアー開催をもたらすことになる。

再始動後のKTCCの作風は、3人それぞれのキャリアとも地続きになった、最新型のKTCCを伝えている点も興味深い。例えば、涼しい顔をして過去最高に緻密かつアクロバティックなマイクリレーを繰り広げたブリージンなナンバー“SummerSpot”にしても、KREVAがソウルフルなブリッジ歌唱を織り込んでヴァースとコーラスを滑らかに繋ぐコラボ曲“住所 feat. 岡村靖幸”にしても、かつてのKTCCの斜め上を行く創意工夫が見て取れる。


そう、忘れてはならない。KICK THE CAN CREWはいつだって世間とあなたのハートをザワつかせる、そんなグループなのだということを。彼らは今後、どんな驚きをもたらしてくれるのだろう。来たるROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019のステージ(8月3日に出演。MCUの誕生日直後だ)も、ぜひ楽しみにしていてほしい。(小池宏和)
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