小沢健二と岡崎京子の90年代から続く盟友としての絆を“アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)”から読み解く

小沢健二と岡崎京子の90年代から続く盟友としての絆を“アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)”から読み解く
小沢健二の新曲“アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)”は、現在公開中の映画『リバーズ・エッジ』の主題歌として書かれた楽曲だ。『リバーズ・エッジ』の原作者は、90年代から小沢健二の盟友であり続ける、漫画家・岡崎京子である。小沢健二は、2月16日の『ミュージックステーション』で、この楽曲を披露し、「これは友情だけでできております。岡崎京子さんという僕の友人で、本当に才能のある──。昔、漫画がすごかったって言われるけど、そうじゃない。今もすごいです。今は描いてないけど、岡崎京子さんは今もすごい人です」と語った。この言葉がすべてを言い表している。この“アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)”は、小沢健二と岡崎京子がお互いの表現に共鳴しあいながら駆け抜けた「あの頃」を経て、今もなお、それぞれが綴ってきた言葉(あるいは音楽、絵)が世代を超えて多くの人々に愛され、時折形を変えながら語り継がれていくという、誇らしい友情の歌だ。

「魔法のトンネルの先」は、つまり現在地。「あの頃」生まれた宝石のような言葉たちは、振り返った過去にだけ留め置かれているものではない。魔法のトンネルを抜けてみれば、今この時代にこそ必要とされているものだったと確信する。だから、語りたくない思い出も、本当にこれでよかったんだろうかと悩んだことも、お互いが共有する出来事を後ろ向きなノスタルジーではなく、今につながる物語として語ることができる。この温かい希望に満ちた歌は、だから、小沢健二が岡崎京子のことを思った私的な思い出やメッセージでありながら、我々リスナーにとっても普遍性を感じさせる歌として強く胸を打つのだ。

岡崎京子が描いてきた物語も、小沢健二が歌ってきた歌も、リアルタイムで「あの頃」を知る者としては、今再びそれに触れた時、そこにノスタルジーが宿ることを否定できない。でも、あれほど心が苦しかった『リバーズ・エッジ』も、ただハッピーに口ずさんでいた“ラブリー”も、2018年の今の自分にはまったく別の、もっと深く人間や生活を考える作品として、ページを開くたび、歌が耳に流れこんでくるたび、違った景色を見せてくる。読者やリスナーの中で何度も解釈が更新されていくのなら、それはどんなに時を経ても、いつも「今」を映す「新しい作品」であり続けることが可能なのだと思う。だから小沢健二は番組で「岡崎京子さんは今もすごい人です」と言ったのだ。

フィジカル作品としての『アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)』のアートワークは、今回も彼らしい素敵な複雑さを見せる。サイズ感は違えど、縦長のCDジャケットは、「あの頃」を彷彿とさせる、というのは考えすぎか。でも現在の小沢健二なら、そのノスタルジーを否定しないでいてくれる気がする。それが今へと確かに続くノスタルジーなら。“アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)”には、映画主演の二階堂ふみと吉沢亮がVoiceで参加している。その言葉の中に、「珉亭」や「シェルター」といった、下北沢で「あの頃」はもちろん、今も愛される場所の名前が出てくる。ノスタルジーと現在が交わって「永遠」という同じ景色を見る。“アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)”はそんな「友情」の歌。(杉浦美恵)
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