シザー・シスターズ @ 新木場STUDIO COAST

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シザー・シスターズ @ 新木場STUDIO COAST
今年5月にリリースした4作目となるアルバム『マジック・アワー』を引っ提げての来日公演となったシザー・シスターズ。前回の素晴らしかった来日公演の時にも感じたことだけれど、いわゆるパーティー・バンドと呼ばれるバンドは数多くいるわけだが、彼らが絶対にブレないのは、そこに自由を希求・謳歌することへの、しなやかかつ徹底された意志があるからだ。だからこそ、ファースト・アルバムが英国で国民的ヒット・アルバムとなった後も、いわゆる業界的な価値判断などとは無縁のところでキャリアを歩むことができた。それは新作に参加したゲスト陣を見ても明らかだろう。ディプロ、カルヴィン・ハリス、アジーリア・バンクスなど、今最もダンス・フロアを掌握している才能が彼らのために集まっている。

会場をあたためてきたDJのプレイが終わった19時46分、場内が暗転。不穏なSEが鳴り響き、ステージが色とりどりの照明で照らされる中、メンバーが登場。サポート・メンバーのキーボーディストをはじめ、コーラス隊、ドラムのランディ、ベイビーダディとデル・マーキーがステージに入ってくる。そして、もちろん最後に登場するのはジェイクとアナの2人である。1曲目は前作『ナイト・ワーク』から“ANY WHICH WAY”。初っ端からジェイクとアナのハモリは完璧。ハンドクラップひとつで、あっという間にパーティ空間を作っていくのも地力のなせる技。そのまま、ノンストップで最新作からの“KEEP YOUR SHOES ON”に突入。おなじみとなっているアナのお尻ペンペンというジェスチャーも絶好調。オープニング部の最後を飾ったのは“BABY COME HOME”。どこか牧歌性を感じさせるシザー・シスターズのグッド・メロディーの典型と言える曲だ。こういう曲を聴くと、彼らが「ファンタジー」を捨てない人たちであり、それを現実の中で生きようとしているのを感じる。

今晩最初のMC。ジェイクが「コンニチワ、トキオー!」と呼びかけると、場内には凱旋的な雰囲気が広がる。アナは相変わらず上手い日本語で「コンヤノショウニオコシイタダキ、アリガトウゴザイマス。ワタシタチハニホンガダイスキデス」と挨拶。そして、今夜は新作『マジック・アワー』からの曲をいっぱいやるけど、その前にまずはずっとやってきた曲をやります、ということで、ファースト・アルバムのボーナス・トラックに収録されていた“THE SKINS”から、セカンドの“KICK YOU OFF”へという流れ。アナがリード・ヴォーカルの楽曲のため、ジェイクはその間にお色直しに。アナの生粋のエンタテイナーっぷりはすっかり板についていて、客席への投げキッスにはオーディエンスも大喝采。曲を終えると最後は「ドウモデス」と一言。ここらへんも姉さん、キマっている。

そして、お次はジェイクのリード・ヴォーカル曲ということで、最新作からの“INEVITABLE”へ。ファーストの“ローラ”(なんと今回はやってくれなかった……)にも近い雰囲気のあるこの曲だが、そこから“TAKE YOUR MAMA”に流れ込むという展開で、まずこの日最初のハイライトがやってくる。しかし、“TAKE YOUR MAMA”、久しぶりに聴いたけど、どのパートもサビなみのフックを持っているというか、一つ一つのパートのメロディの完成度がすごい。あらためてこの曲のハイ・エナジーなパワーに圧倒される。アナとジェイクも楽曲のエネルギーに負けないぐらい踊りまくり。1秒感で何回ステップを踏むのよ、というそんなダンスを見せる。

この日、2回目のMCは、今回の来日が東日本大震災以後、初めての来日になったことについて。日本をいかに愛しているか、という思いが伝えられる。そこから “RUNNING OUT”に突入したのだが、こうしたMCの後に神妙なナンバーをやるのではなく、あくまでパーティー・チューンを鳴らすのが実に彼ららしい、というか、このバンドの信じられるところはそういう部分だったりする。続いて、最新作からの荘厳なバラード“YEAR OF LIVING DANGEROUSLY”を挟んで“LET'S HAVE A KIKI”へ。その次の“SKIN THIS CAT”と合わせて、ここもアナの見せ場となるパート。特に“LET'S HAVE A KIKI”は、新作『マジック・アワー』の新機軸を象徴する、リズム的にはこれまであまりなかったタイプのナンバー。それを、アナとジェイクとコーラス隊の4人の群舞によって、見事にエンタテインメントに仕立て上げているのがお見事。“SKIN THIS CAT”でも、再びお色直しに向かったジェイクが抜けた3人で、見事なダンスを披露してみせる。

そして、お色直しを完了したジェイク(ゴッツいジャケット(?)にハーフパンツという、これまたジェイクな衣装)が再びステージに登場して歌い始めたのは、ファースト収録の感動のバラード“MARY”。いよいよ終盤に差し掛かったこのパートでさらに名曲が投下されていく。マーチャンダイズにもなっていた「kiki」のコール&レスポンスから突入したのは“COMFORTABLY NUMB”。もちろん、フロアは大沸騰。前作からのシングル“INVISIBLE LIGHT”、音源ではアジーリア・バンクスとの共演となった“SHADY LOVE”を挟んで、本編最後に演奏されたのは“I DON'T FEEL LIKE DANCIN'”。もちろん、ここでこの日最高の沸点を記録。場内に広がったその多幸感といったらなかったのだが、ひとつ面白かったのは、PAスタッフが、お客さん同様というか、お客さん以上に、ノリノリで踊っていたこと。こういうところからも愛されているバンドだなあと感じる。そして、これこそシザー・シスターズだよなあと納得する。「アリガトウゴザイマス。You are amazing. Good Night. コンバンワ」という、ちょっとずっこけるアナの挨拶とともに本編は終了。

フロアの床を激しく踏みならす客席の音に導かれて始まったアンコール。ジェイクとアナはまた着替えていて、ジェイクは全身光沢系、しかし背中はメッシュというボディスーツ姿、アナは水玉のような鏡のついた黄色のドレスに着替えている。そして、ここで演奏されたのは、新作からのリード・シングルとなった“ONLY THE HORSES”。最新作の楽曲がちゃんとショウのクライマックスになる、どのアルバムにもちゃんとフロアを揺らすアンセムがある、これこそシザー・シスターズの健全さを証明していると思う。最後はファーストからのロック・ナンバー“MUSIC IS THE VICTIM”で締め。ハイヒールを脱いでステージ上を駆け回るアナ、筋肉を最大限に行使して踊るジェイクの姿を見ていて、あらためてこのバンドの祝祭感のブレなさを実感する。今回の来日公演は、残念ながらソールド・アウトというわけにはいかなかった。けれど、また日本に帰ってきてほしいと思った。(古川琢也)
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