DTMソフトを駆使して編曲まで手掛けるのが彼女の基本だが、外部アレンジャーの手を借りることも増えている。イレギュラーな音が盛り込まれた「Solo.ver」、スタイリッシュな仕上がりの「Band ver.」の2種類がある“秘密の恋”を聴き比べると面白い。各々異なるアプローチでありながらも、狂おしい恋で身を焦がす女性像をどちらも浮き彫りにしている様は、彼女があらゆるサウンドを乗りこなせる歌唱力、表現力の持ち主であることの証明だ。そして、ユニークな曲を難解な実験音楽ではなく、極上のポップソングにしてしまえる理由も、ここにあるのだと思う。ラップや効果音を交えて音を遊び尽くしている“ピカレスクヒーロー”、巧みなビートの捉え方であの発酵食品を表現した“Natto”は、ブラックミュージック愛好家も痺れるだろう。12個の展開が見事にひとつの物語と化した“十二支のアマゾン”が、本当にとんでもない。“ぢごくに落ちて心から泣け”は、怒りを面白く表現できるセンスの良さが光る。音を遊ぶ天賦の才能が、楽しさへとリスナーを徹底的に巻き込んでくれるのが今作だ。(田中大)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年6月号より抜粋)
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