日経ライブレポート「ナズ/ダミアン・マーリー」

もう二度と観ることができないかも知れないこのような素晴らしいライヴの目撃者になれた幸福感に震えながらの夢の2時間だった。

ヒップ・ホップ・シーンにおいて最も力のある言葉も持ち、常にジェイ・Zと共に最高のMC(ラッパー)と評価される巨人ナズと、ボブ・マーリーの息子であり、優れたレゲエ・アーティストであるダミアン・マーリーのコラボレーションプロジェクトのライヴだ。アルバム1枚しか発表されていないにもかかわらず、2人はそのアルバムを携えワールド・ツアーに出た。アルバム全曲を演奏したところで1時間程度にしかならないにもかかわらず、かなり乱暴な決断だ。

しかしライヴを観れば、その決断の意味が分かる。構成的に言えば2人が自らの持ち曲を演奏するソロ・パートによってショウは2時間のヴォリュームになった。それぞれが代表曲を演奏してくれるので観客は盛りあがる。ただそれはソロをつなげたという単純なものではなかった。特にナズは、重いレゲエ・ビートを叩き出す限りなくオーガニックなバンドサウンドをバックに、これまでとは全く違う形のパフォーマンスを見せてくれた。ダミアンの叩くパーカションと共に歌われた代表曲“ワン・マイク”は圧巻だった。

アルバム・ジャケットにもこの日のライヴのステージバックにもアフリカ大陸の地図が象徴的に使われている。キャリアもスタイルも違う2人の黒人アーティストを繋ぐものとしてシンプルで力強いメッセージだ。それが具体的に音楽のどこに反映されているかは分からない。ただこの2人が一緒に演奏することによって生まれた音楽の奇跡、それはこの場に居た全ての人が感じたはずだ。

2月24日 ZEPP TOKYO

(2011年3月8日 日本経済新聞夕刊掲載)
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