サザンの「覚悟」を聴く――『東京VICTORY』について書いたコラム的な文章(後編)

サザンの「覚悟」を聴く――『東京VICTORY』について書いたコラム的な文章(後編)

続きです。


さらに、「何を歌っているのか」という点においても、この曲ではかつてなくダイレクトな表現がなされている。

たとえば。
《希望の灯火(ともしび)/それは金色(きん)に光る/一番星》

照れ隠しも洒落もなく、まっすぐに向けられている。
何に。
日本と日本人に、だ。

桑田佳祐らしい押韻の気持ちよさは貫かれているが、それを含めて「何を」歌うか、というより、「誰に」歌うか、が先だっている歌詞。
そして、「誰に」という目的から導かれて生まれてきたかのような、自然で照れのないストレートな鼓舞。

今、日本と日本人に向けて歌を歌う。
であれば、何を歌う。
その目的意識から動き出したからこそ、モチーフは東京オリンピックになったし、その歌はまっすぐに鼓舞的なものになった、ということなのではないだろうか。

ということを総括して言うと、2014年夏の終わり、今サザンがサザンをやる理由とはつまり。
「誰に」と「何を」がかつてなく強烈にダイレクトに結びついたから、ということだったんじゃないか。

その意味で、”東京VICTORY”は、最新にして、ずばっと突き通された王道が鳴る、これぞ最新のサザンオールスターズである。
まさに、夏の終わりに聴きたい、ぐうの音も出ない100点満点のサザンオールスターズである。
だが、この曲は夏の湘南、134号線を下りながら陽気に歌って――という気分ではなく、深夜の首都高でひとりで噛み締めるように聴きたいサザンオールスターズである。
その違いにはやはり大きな理由がある。

そして、カップリングの”天国オン・ザ・ビーチ”。
この曲で桑田佳祐が全力でやりきっているスケベ脱力ネタも含め、『東京VICTORY』は、本当に完璧なサザンシングルだ。
だけど。
ちょっと完璧すぎる。そんな気がする。
僕はちょっと怖いくらいにビンビン感じている。

今回の復活に際しての「あそこはすっかり萎えていますが〜」というコメントも完璧だ。
とても桑田佳祐なこのメッセージに苦笑しながら、このあまりにパーフェクトなサザン像に、これまでの復活とはまったく違う、より巨大な「意味」を感じざるを得ない。
さらに言うと、その「意味」は、「覚悟」と言い換えてもいい。

新たな王道を突き進む2014年のサザンが放つボディミュージック、”東京VICTORY”。
そして、やはりもうひとつの王道である完璧な振れ幅としての”天国オン・ザ・ビーチ”。

サザンが今、完璧なサザンをやることの意味。
その「覚悟」を思うこと。

それが、僕にとっての『東京VICTORY』をひとり聴くことの意味だ。

いろいろな人と語り合ってみたいシングルです、本当に。
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